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この広い世界にふたりぼっち (MF文庫 J は 6-1)
- 葉村 哲
- メディアファクトリー
森と街の狭間を私は歩いていた。アスファルトの上に、私の小さな影、頼りない街灯が道を照らす。新月の晩。静かだった。その静けさを乱すこと無く、影のような足取りで、狼が現れた。白い狼。低く静かな声で狼は――話した。「私と結婚してもらえないだろうか」
*** *** *** *** ***
肌寒い冬のある日、真っ白な狼に突然、求婚された少女・塚木咲希。孤独をうちに抱えた二人が出会ったとき、現実世界に“神話”が侵食しはじめる!
「父上をあの広場に埋めた、私は心臓を食えなかった」
「そうですか」
「終わった。私が憎んだ森は消えた」
「ええ、あなたの望みは叶った」そして、孤独を知った。
「私は誰だ」
<中略>
「神さまにでも、聞いてみましょうか」
これはすごいなぁ。
森で生まれた異端の狼の『月噛み』。
彼は一人真っ白な毛並みを持った生まれながらにしてすでに異端の狼だった。
一方咲希は精神面で人間関係に相容れぬ壁を感じていた。
「私と結婚してもらえないだろうか」
シロという名前を与えられた『月噛み』は、気高き孤高の少女に気を許します。
お互い似たもの同士でしか相容れない異端故の苦しみを共有してどこまでも深くて仄暗い地獄への逃避行が始まる。
お互い自分を押し殺して、耐えて、必死に努力をすれば人(狼)の群れから排除されることもなく馴染めたのかもしれない。
特に咲希は十分引き返すことができる位置で彷徨っていたのだけれど、自分を偽わらない気高さとどこまでも深くて仄暗い不幸への甘美さが魂を奮い立たせるように咲希とシロを地獄へ駆り立てます。
まるで逃げることをせず、自ら社会性の核心へと迫るものすらただ捨てて、捨てて、捨て去ってしまう破滅的な選択の先に待つものにしか救いを求めることができなくて、同時に不幸に酔いしれて孤独を食いつぶすような悪魔の甘美さに身を委ねてしまう。
だけど、これは分かるような気がする。
どうしようもなく孤独で、これが絶対に理解されないと知っているからこそ不幸という麻薬的な快感に身を委ねたくなってしまうんですよね。
心にぽっかりと穴が開いてしまうほど挫折して絶望したことがある人ならこの気持ちは分かるかもしれない。
でも通常これは寸での理性で押しとどめている感情に過ぎない。
だけれど咲希の中の絶対折れないという強さが、シロと出会った世界を見たことで人間を捨てる選択を決断してしまう。
一方シロも咲希と出会い、咲希のどこまでも純粋で気高い魂に異端の本質を理解してしまう。
どこまでも破滅的な逃避行なのだけれど、この二者の退廃的なシルエットがとてつもなく美しかった。
咲希の目的を遂行するためなら遠慮なく立ちふさがる命をなぎ払う冷酷さ、自分の両親すら見捨てる俯瞰したような鋭い目、そのどんな負の感情さえも絵画のように美しくて絵になるんですよね。
その落とすシルエットすら絵の一部のようで……。
咲希と蝶々との戦いがとても狂おしくて、狂気と冷酷さの裏に隠された興奮に身をよじり、ただ快楽に埋もれていく様子を体言していたと思います。
脳髄がしびれそうなどこまでものめり込みたくなる不幸の甘美さを美しく狂おしく描いたラブストーリーでした。
不幸の上に築いた一握りの幸せが、果たして本当に幸せなものなのかどうか……。
冒頭の引用はそれを悟ってしまった神すら信じないような咲希が、精一杯の皮肉を込めた悲鳴のようでもありました。
救われて欲しいのだけれど、これは救われないからこそ輝く美しさなんだろうなぁ。
かなり人を選ぶ作品だとは思いますが、好みではなかった人はある意味恵まれた環境で充実しているのかもしれません。
僕はサイコパスなヒロインも大好きなので、かなり好みな作品でした。
予断ですが、作者のあとがきのテンションのギャップに驚いた。

















