
***
湧き上がる疑念、両者の想いは擦れ違う。やっぱりこのエピソードは動きがあると栄えるなぁ。プロレスショーもさることながら、ギスギスとしてくる人間模様も臨場感ばっちりで堪らないのであります。
逢坂父と次第にかつてのふれあいを取り戻しつつある大河。そんな中、大河が引越しするかもしれないという事実を聞いて、竜児の中に疑念が沸き起こるんですよね。
幸せになれるならいいんじゃないか……と頭では考えつつも、どうしても心の中で違和感を拭うことができない。言葉では否定しつつも、竜児の冴えない顔がそれを殊更に強調しています。というか、自分に言い聞かせるように呟いている。
これは、
大河を失うかもしれないことに対する戸惑い、なんですよ。
今までの竜児と大河の関係は、いわば家族のそれであった。だから、大河がいなくなることに気づいてしまったからどうすればいいのか分からない。竜児にとっては家族同然だった空間にぽっかりと穴が開くことを実感できていないんだな。だからそこまで至る考えを極力排除して思考停止しようとする。
そんな竜児の思考の流れを知ってか知らずか、泰子は泰子なりにそれ違うんじゃないの? と誰に言うでもなく泰子なりに呟くのですよね。大河ちゃんは家族なのに、と。大河ちゃんのお父さん勝手だよね、と。
こんなにも身近なところでヒントがあるのに、竜児がそれを受け止めようとしないのは―ー大河に父親の影を見た、後ろめたさがあるから。
自分は何よりも行方も分からない父親との生活を望んできた。そして目の前の大河はそれを叶えようとしているのだ。何よりも自分が欲しいからこそこんなにも大河を炊き付けてしまうのです。
でもその羨望は違うということにも自覚的で、だからその後ろめたさへのせめてもの罪滅ぼしが大河の幸せを望むことだというわけですね。
そうして胸のうちに抱いた違和感を押し殺すように言い聞かせる竜児なのですが……。
この痛いところを目ざとく突いてくるのが実乃梨なのだな。
このシーン、どう描かれるのかなと楽しみにしていたんですが……大河という二人にとって何よりも大切な存在を賭けた、真正面からのぶつかり合いにゾクゾクきた。いや~実乃梨の問い詰める表情が素晴らしい。
実乃梨は勿論竜児の葛藤なんか知らないし、知っていてもそれを許さないでしょう。
高須君、その人に会った時ちゃんと両目開けて見た? その目は、ちゃんと見えてたの!?
大河が大切だから真正面から竜児の傷を抉りこむように問い詰める。この境界を感じさせた他者への厳しさが実乃梨の本性なんですよ。少なくとも彼女自身はそれを自覚している。
大河が自分の内側――こちら側の存在に立っているから、
それを死守するべく外側――向こう側の竜児を迎撃するのだ。
この強い排他性こそが実乃梨の本質なのです。
だからこのぶつかり合いは後々に繋がる大事なエピソードとして機能するんですよね。
何故なら、この過程は竜児が実乃梨の内側へと入れるチャンスでもあるから。
普通の人は実乃梨のこの境界線にすら立てない。そんな一面を他人には絶対に見せない演技者なのが実乃梨なのです。だとすると、本当は夏合宿のときからこの境界を匂わせていたのかもしれませんね。
時折見せる実乃梨の危うさは、この境界が垣間見えたからなのかもしれません。
こうして、後味悪く剣呑な雰囲気を漂わせたまま別れてしまった二人。そこにきて存在感を急激に強めてくるのが亜美なんですよね。
ここで急激にこの友人関係に渦巻いた構図の一端が見えてくるのです。
亜美とはいわば、大河を中心に挟んだ竜児と実乃梨の関係には影響を及ぼさない部外者。
私は高須君の少し前を歩いていくよ
というのは、この関係性には交わらないと宣言した、ということ。こんな糸が複雑に絡み合った関係には交わらず、竜児と対等な立場から一本の糸だけで竜児と繋がりたい。
それは自分が部外者だということを認識しているから。どうしてもこの関係性には交われないという諦念からくる虚勢でもあり、そうなりたいという願望でもある。
これが竜児に対する恋愛感情の好意なのかはまだ分からないかな。でも、少なくともこの関係性の複雑さを見抜いていて、それでいて自分も竜児と深く結びつきたいと主張していることだけは分かります。
私はあなたの直ぐ前で見ているから、気づいてどうしようも無くなったら前に進んで私の糸を手繰り寄せてね、と亜美は言っていたんじゃないかな。
まぁそれに気づかない鈍感さが竜児の命取りになるのですけれど。
それはさておき。
そんな鬱屈した空気をまとったまま、文化祭は幕を開ける。
文化祭の晴れやかな雰囲気は、誰にでも平等に作用するのです。
プロレスショーはやっぱり動きがあると断然楽しいなぁ。能登の小者っぷりが素敵過ぎます。そしてやはり、真の主役は独身(30)。先生サクラでもないのに見事なまでの暴れっぷり。敵味方、台本すらも関係なしの錯乱っぷりが面白すぎて腹痛い。
いや、本人からすれば全然面白くないんでしょうけれども!
何気に時代錯誤な30代ネタ満載で、大きな大きなお友達にしか伝わらないんじゃないかなぁ。
ともあれ、無事に幕を明けた大橋高校文化祭。
大河の心情考察は次回の後編にたっぷり考えるということにして次に回してもいいかな。
いやはや、次回は見せ場たっぷりですぞ。1クール目のトリでもある文化祭編後編。中編放送終了後から次週の放送が楽しみで仕方ありません。

- とらドラ! 5 (5) (電撃文庫 た 20-8)
- 竹宮 ゆゆこ
- アスキー・メディアワークス
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