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“文学少女”と恋する挿話集 1 (ファミ通文庫 の 2-7-1)
- 野村 美月
- エンターブレイン
FBonline等掲載の短編&SSに書き下ろし4編を加えた豪華短編集!!
柔道一筋、人呼んで「炎の闘牛」。そんな彼が恋をした! 清楚で可憐な大和撫子、その名は……(『”文学少女”と恋する牛魔王』)、「このことは内密に」待望の入部希望者が漏らした呟きには、何やら不穏な気配が!?(『”文学少女”と革命する労働者』)ほか、遠子のクラスメイトとの交流や、美羽&芥川のその後など、ほろ苦く甘い、極上のエピソードが盛りだくさん! 物語を食べちゃうくらい深く愛する”文学少女”天野遠子と、彼女を取り巻く人々の、恋する挿話集第1弾!!
「心葉くんは絶対”受け”よ。そっちのほうが体の負担が大きいのよ。裂けちゃって大変なのよ」
いや~楽しかった。”文学少女”シリーズのちょっとした隙間を補完する短編集というわけで……基本的には楽しいお話が中心でしたね。いや~こういう温かくて楽しくなっちゃうようなエピソードも堪んないの。
遠子先輩の妄想もヘンな方向に炸裂しちゃって、慌てふためく心葉が可愛くて仕方ありません。
そうした、楽しい時間や甘酸っぱい時間をいっぱい詰め込んだような挿話集でした。
例えるならば、ふわふわとした甘い生地を堅めの生地で包んだチョコレートカヌレかな。そのてっぺんにちょこっとオレンジの欠片が添えられていて、柑橘系のソースでデコレートされた洋菓子のような食感。
最初のエピソード、『”文学少女”と恋する牛』魔王なんかは、ニヤニヤしちゃうくらいに面白くてとっても甘~いお話で、ふわふわとしたスポンジをかみ締めるような食感なんですよね。でも、そういう甘~いお話だけではなくて、それを包み込むのはしっかり表面を焼かれた固めの生地なのです。
芥川くんと美羽のお話なんかは、シリーズ本編ではなかなか明かされなかった二人の境遇を苦悩の日々を綴るように描かれています。だけれども、足を踏みしめて前を向いて歩いていこうという確かな決意が感じられるお話でもあるんですよ。
それを受け止めるようにしっかりと焼かれた生地にチョコレートのほろ苦さが絡まりあうように溶け出してきて、なんとも苦いものが胸の奥に込み上げてきます。その風味に包み込まれるようにして包まれた甘いお話が、そんな風味に負けないおいしさを演出している。
堅い生地をつついて割った中には、今までの食感が嘘みたいにふわふわとした甘い生地が待っているのです。その舌先でとろけるような食感に、甘酸っぱい柑橘系の風味をもたらしてくれるのが切ない恋のお話。
『”文学少女”と病がちのクロエ』の甘酸っぱさといったら堪りません。恋する乙女の不安と期待が入り乱れていて、そんな恋に迷える乙女の背中をそっと一押しする遠子先輩が素敵でしたね。
この甘酸っぱさは身悶えちゃうよなぁ。
しかしそうした甘酸っぱい恋模様も、実は遠子先輩と心葉の関係とは対照的な恋愛の形なのだ。
実ることが前提の恋もあれば、実らないことに意味がある恋もある。
そうした一面を切り取っていくのが流人と麻貴のエピソードなのです。遠子と心葉の関係を優しく見守ってきたいわば二人の傍観者の物語が、本編では描かれなかった裏側のエピソ-ドとして語られます。
これは例えるなら、ふんわりと焼かれたカヌレに彩りを添えるソースかな。
このツンと沁みるような柑橘系の香りが、二人の恋の物語を優しくデコレートするのです。
そうして出来上がったのが、遠子と心葉の恋模様だけを切り取った一つの洋菓子なんですよね。
そのシルエットは驚くほどにこじんまりとしているのだけど、その堅く焼かれた表面をつつくと中からはふんわりとした極上のスポンジが顔を覘かせる。バニラの香り漂うあま~い食感の中に、ほろ苦いチョコレートの香りが絶妙に絡まりあってきて、アクセントを利かしたオレンジの香りがピリっと鼻をついてきて堪らないのですよ。
口の中いっぱいに広がる上品な香りに、僕は魅了されてやまないのです。
あ~美味しかった。本編では語られなかった挿話集が、こじんまりとした焼き菓子となって非常によくまとまっています。
その上に飾り付けられたオレンジの欠片――心葉の前を去った遠子先輩の後日談が非常に甘酸っぱくて一味違った爽やかな風味が彩を添えているのですね。
胸が締め付けられるように苦しい、だけれどもそこに鬱屈した空気を纏っていないのは、好きな人の幸せを願ってただ前を歩いていく確かな決意があらわれているから。そのどこまでもつきぬけるような爽やかな風が甘酸っぱい風味を運んでくれたラストエピソードだったのではないかと思います。
本編が完結しても、こういう小さな挿話集としてその合間を補完するエピソードが語られていくのは全然野暮じゃあないです。むしろもっと味わってみたい。
“文学少女”と恋する挿話集、次はどんなデザートが待ち受けているのでしょうか。ナイフとフォークを手に焼きあがるのを楽しみに待ちたいと思います。
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