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ANGEL+DIVE〈3〉LOVENDER (一迅社文庫)
- 十文字 青
- 一迅社2008-12-20
あの最悪の事態から時が経ち、夏彦たちはいろいろな面において変化せざるを得なくなっていってしまう。
変わっていく物、変わってしまう者、変わらざるを得ない者……。
戻らない時とともに、運命の輪が狂いだしたまま進んでいく久堯市で、
意外な人物たちが物語を大きく変えて行くのだが、
果たしてそこにも容赦ない運命の悪戯が待ち受けることになるのだろうか――。
十文字青の大人気シリーズ、堂々の第一部完結!!
ぼくをかわいがってくれたお祖母ちゃんが死んだ。あのときからぼくは死ぬことを考えていた。
あの日を境に、ぜんぶ変わってしまった。
したいの きす
とにかく、あの女はそのディジェネレーターってわけだ。
そして、ひょっとしたら、オレと、織慧も
夏彦くん。私に手を貸してくれないか。交換だ。私と取引をしよう
わたし。生きたい。もっと生きたい。
あなたと出会えてよかった。
でも、こんなことなら、出会わなければよかった。
ラベンダーの花言葉、あなたを待っています/期待/承認/優美/豊香/不信/疑惑/沈黙/私に答えて下さい――。
『あなたを待っています』そんなラベンダーにのせられた花言葉が紡ぎだす物語は、疑惑を生み出し、やがて沈黙する。
――私に答えて。私の中の私。
可憐に咲いたラベンダーが鮮やかに散り行くように、あるいは咲いていたのは幻影なのだと言わんばかりにその芽すらを出さずただ沈黙するLOVENDER。
予想を超え希望を塗り潰した悲劇の応酬に息を呑みましたよ。
前回、前々回までの不透明さが嘘のように、精緻に描かれた登場人物たちの内面はまさに圧巻の一言でした。夏彦・桜慈・真鳥姉妹・春・その他関係人物に共通していたのは「身近な死」と「希薄な自我」だったのですね。
夏彦の不穏さの正体は、早すぎる死への達観。その年不相応の死への諦念は夏彦の中に大きな空白を形作っていたのだな。いずれ人は死ぬんだ。そんな諦めが自我を蝕み、空虚な夏彦の幻影を描き出す。
一方の桜慈は、過去に起きた凄惨な事件が桜慈のなかに暗い影を落としていた。あの日を境に、ぜんぶ変わってしまった。俺は一体誰なんだ。世界のすべてが歪んでいて、何より自分自身に浮かんだ違和感が拭えない。これは本当に一体何なのだ?
そうした自己への不信が、桜慈に空虚な影を堕としていて、流れていく日常を、快楽を貪ることで自分の存在を噛み締めてきた。
一見外見からは正反対に見えるこの夏彦と桜慈の両者は、同じく底知れない空虚さを抱えていたからこそお互いに惹かれあったのだ。
だけれども、そうした関係はお互いに訪れた運命の基点を以って、正反対の道筋を描き出す。
桜慈は春に一目惚れして、自分の中の溢れ出す言い知れない感情の正体に戸惑いますが、その恋という感情がもたらす優美な響きに確実に自らを感じ取って希薄な自我を取り戻し始めます。
凄惨な過去の事件によってぽっかりと空いてしまった穴を、春という存在で穴埋めしたのです。
あれだけ余裕の態度をかましてきた桜慈が、意外すぎる初心さを見せてくれたのには驚きましたよね。ちょっとしたきっかけですぐ赤面してまともに口をきけなくなってしまう桜慈が可愛すぎてきゅんきゅんしちゃった。
それに対して、夏彦は突然去ったトワコの幻影を追って思索の海を彷徨います。突然の喪失が、夏彦の中の死への諦念と結びついて彼は悟ってしまうのだ。人間とは所詮儚くて脆い生き物なのだと。じゃあ何故人間は生きることに必死になるの? 意味なんてないのに何故?
そうした感情を胸に秘め夏彦もまた以前とは対照的に、形を成さない空虚な感情をもって希有をあしらい始めます。希有の明確な好意をしっかりと理解したうえで、しかしそれは決して正しい解釈ではなくてただ誑し込むように希有の愛情を貪る。唇を貪る。ただ快楽のみを求めて希有を犯す。
希有も夏彦のそんな態度をどこか頭の隅で理解していながらも、自らの強すぎる独占欲を前にただ緩慢な堕落に身を浸すのだ。
夏彦の中に渦巻く暗い感情。そうした自らの空虚な感情を冷静に分析できる賢しさが夏彦を闇へと誘い込みます。だけれども、それでも夏彦はひと筋縄では堕ちない。夏彦の中で形を結びつつある何かによって、彼はあっち側とこっち側の狭間で非常に危ういバランスを保ったまま彷徨い続けるのですよね。
こうして元は同質であった夏彦・桜慈の両者の姿が、確かな切欠を元に対比的に描かれます。
この物語にはセックス&バイオレンスが満ち溢れている。それも生々しくただ欲望に忠実に。しかし、ごく自然な流れでそうした生々しい描写が描かれることで、等身大のリアルさとそのもたらす重さを醸し出すことに成功している。
この生々しく描かれた子供たちのある種異様な雰囲気が、この物語に潜む”あっち側”に言い知れぬ説得力を付加するのです。
両者が感じ取っているこの”何か”、あっち側とは一体何なのだろう。
そうした疑問が、ミライジンのトワコが残した言葉によって形を成す。
キーワードは、
- ANGEL+DIVE《エンジェルダイヴ》
- degenerator《ディジェネレーター》
- advance《アドバンス》
希薄な自我が死と形容する他ない”何か”に乗っ取られる――すなわち《アドバンス》することで《ディジェネレーター》は誕生する。それを生み出す装置《エンジェルダイヴ》とは何なのか――その鍵を握るのはミライジンのトワコのみ。
いやはや、このめくるめく展開の応酬にはのたうった。あやふやな未来図がこんなにも凄惨な悲劇を生み出してしまうなんて。このどこか非現実的で、それでいてひどくリアルな喪失。
この忠実に描かれた死に、抱いた感情。これをぽっかりと胸に穴が開いてしまったようなただ空虚な喪失と言わずなんと言おう。
この物語には、確かな死が渦巻いている。
理不尽で、それでいて等身大を感じさせる恐ろしいまでに自然でリアルな死がそこにある。確かに、そこに死が描かれているのだ。
序章からいきなりクライマックの超弩級シリーズ、凄惨な結末で幕を閉じた第一部「1990年久堯市編」堂々の完結。
これは注目の大目玉シリーズになった。めくるめくドラマチックな物語に興奮がおさまらない。どうしよう、第二部が待ち遠しくて堪らないのです。この物語の行く末は一体どうなってしまうのだろうか、第二部が非常に楽しみ! これは五つ星を付けざるを得ない。[amazon asin="89LOVENDER"][/amazon]
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![[読了]ANGEL+DIVE 3.LOVENDER](http://blog.ajin.jp/wp-content/cache/ttftitles/4213a2b7d74430c9a7cde52870997bee.png)


















感想リンクありがとうございます.作品を的確にとらえた,すばらしい感想ですね.
> 理不尽で、それでいて等身大を感じさせる恐ろしいまでに自然でリアルな死がそこにある。確かに、そこに死が描かれているのだ。
この作者は,リアルな喪失を書くのがうますぎて,毎回泣きそうになりながら読んでます.表紙や扉絵で,悲劇的な結末までの道筋が容易に予想できるだけに,幸せになっていく二人を読んでて,ページをめくるのがつらかったです.
いえいえ、こちらこそ的確な分析になるほどなと唸ってしまったので貼らせて頂いたしだいで御座います。突然のご無礼をお許しください。
作家「十文字青」の作風から見た客観的な分析と考察はきれいにまとまっていて見事でありました。僕は情報の取捨選択があまり得意ではないのでぜひとも見習いたいです。
>この作者は,リアルな喪失を書くのがうますぎて,毎回泣きそうになりながら読んでます
ですよね~。十文字さんの作品は僕はANGEL+DIVEしかまだ読んでいないのですが、まるでひとりでに動き出しそうなほどに緻密で精緻な心情描写に驚きました。だとすると、このシリーズの1・2巻はあえて不明瞭に描き出していたというわけでして……。この不明瞭さが晴れていく爽快感が、示された結末を受け入れられない状況を作り出しているのだと思うとそこに待つ喪失がこれほどにリアルなのも頷けますよね。
期待してしまうから苦しい、というのが実に丁寧に描かれていて僕も読了後に圧倒的な喪失感に苛まれてしまいました。いやはや、実に「十文字青」という作家に魅了されつつあるような気がします。薔薇のマリアも読んでみようかな~……。
ub7637さん、コメント有難う御座いました!