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時間商人 不老不死、二度売ります (ガガガ文庫)
- 水市 恵
- 小学館
時間商人 不老不死、二度売ります
不老不死を必要とする者の前に、時間商人の助手は白猫を連れて現れる。
世界的な経営者の長山豪介、献身的な新薬開発者の佐原修、姿をみせない公園の何者か。
それぞれの理由から死を遅らせたいと願う彼らに提示される、時間商人トキタの契約。寿命か金銭を支払えば、
トキタは特別な10年間を提供する。それは老いず、怪我や病気が進行せず、絶対に死なない「期間限定の不老不死」。
トキタの店に足を踏み入れた人々は、数奇な運命に導かれていく――。
「幸か不幸か、僕たちは生きている」
私たちは苦しみながらも抜け出し生き永らえる。
相変わらずこの物語に流れる艶かしい時間はとりもなおさず絶品。
今作は「時間が止まる」ということに着目して不変の時間を克明に描ききっていたのではないかと思います。
肉体が成長するためには時が流れていなければいけない、けれど止まることにも意味がある。それは、立ち止まらないと壁を乗り越えられない時なのだ。
「時間が止まる」という意味を、身体(Physical)を土台にした バイオリズム 的な概念で捉えた『時間商人』シリーズ第二作 * 1 の感想です。
立ち止まらないと壁を乗り越えることが出来ない。
逆に言えば精神の成長を促すために、肉体の成長を止めると言い換えることができます。
例えば、病気によって余命幾許もない人が、目の前に聳え立った目標をどうしても達成したいというとき。この人にとって、不変の十年は自己実現のための最高の十年となる。肉体の成長は止まっても、精神の成長は止まることをしらないのです。更なる高みを渇望し、絶えず成長することに余念がない人たちにとって十年という区切りは絶妙に思える。
目標から逆算して現在の位置を把握することが出来る人にとって、その区切りは明確な指標となるのです。
では、その区切りの十年を無限に手に入れることが出来たら――?
という問いかけによって、このテーマは広がりを見せていきます。これに深く切り込んだのがオサヤマの社長さんのエピソードだったのではないかな。
彼の環境において、自己実現の十年のための代償は無限に支払うことが出来る。すでに何度も不変の十年を買うことが出来る高みにいるのですよね。けれどそうした彼の『生』は果たして――オサヤマという枠組みの中ではその牙をかみ殺す罠となり得てしまう。圧倒的な高みはそれ自体が大きな脅威となってしまうのだ。
オサヤマという大きな枠組みの中で、更なる高みを目指すために成長するには豪介の『生』は喪われなければいけなかった。その大きすぎる存在が先に広がる展望を覆い隠してしまうのです。そのために豪介は死ななければいけなかった。
豪介の『生』と、オサヤマの『生』。この二重構造の一旦をトキタが担うことで更なる高みへと邁進する様が非常に印象的なエピソードでありました。
しかしこの二重構造というのは『時間商人』という存在の存在意義にも掛かってくるのですよね。
二重構造を張ったオサヤマのエピソードのその裏で、人類が発展する上で死ぬことをやめてしまった無限の命としての『時間商人』が平行して描かれて行きます。それは言わばオサヤマにとっての豪介を意味している。成長の妨げとなってしまう『罠』が、癌に例えられたのは何かの皮肉なのかもしれません。
そう思うと区切りのない『不老不死』を得たカナタの苦悩 * 2 にも頷けます。
けれどこの物語には『抗がん剤』というファクターもまた同時に描かれるのですよ。
カナタはこれを癌を穿つ存在として捉えたのだけど、区切りのある『生』に代表された命の煌きにこそ掛かっていたと捉えるのは少々夢見がちすぎるかな。
構造をもった「生き物」は常に進化と淘汰を繰り返す。癌が出てくれば抗がん剤が出てきたりと進化の反対は淘汰でその逆も然り。
言わば、『時間商人』の無限の『生』も、明確な区切りをつけて生きていくことで輝くんだよ、不毛なんかじゃないんだよ、と言いたかったのではないかな。
煮詰めていくと容易にエラーの出そうなテーマなのだけど、本作はここまで大きく一般論へと広げたことによってうまく進化と成長というテーマを伝えていたのではないかと思います。
成長するということを、『不老不死』という不変の『生』という観点から切り取ったのがこのシリーズの面白い所でもある。
そして、その反証として肉体の成長に精神の成長を思い描く圭吾 * 3 が描かれることで『精神の成長』というのが明確な形を持つのです。
こうした抽象的なテーマを、本作は各人のエピソードになぞらえて語りながらも、その主観に入り込みすぎない絶妙な立ち位置で描きとっています。
主観に潜り込むのだけど、その心情にまで立ち入らないのですよね。だから時が立ったという事実を客観的に受け入れることが出来るのだ。
この流れる時間の艶かしさが、とりもなおさず絶品なのです。
すべてを見渡す読者の立ち位置こそが、本作においてイソップ童話の『ライオン』になぞられた圧倒的なる高みそのものだったのかもしれない。
『執筆者』と『時間商人の物語』という二重構造を描いた本作、その中にいくつも張られたレイヤーを読み解く過程が面白かったです。
ちなみに、前作のギミックが『野球』 * 4 だったのならば今作は『苗字』だったりします。
まぁそれは読んでのお楽しみということで……。
完成度だけではこれ以上の作品は沢山あります、けれど僕はこの作品を流れる雰囲気が堪らなく好みなんだな。
もう少しだけ本シリーズを通して時間商人たちの物語を見ていたい。

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