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紫色のクオリア (電撃文庫)
- うえお 久光
- アスキーメディアワークス
自分以外の人間が“ロボット”に見えるという紫色の瞳を持った中学生・毬井ゆかり。クラスでは天然系(?)少女としてマスコット的扱いを受けるゆかりだが、しかし彼女の周囲では、確かに奇妙な出来事が起こっている…ような?イラストは『JINKI』シリーズの綱島志朗が担当。「電撃文庫MAGAZINE 増刊」で好評を博したコラボレーション小説が、書き下ろしを加え待望の文庫化!巻末には描き下ろし四コマのほか、設定資料も収録。
「――あのね、ガクちゃん。
あたしに必要なのは、あたしの願いをかなえてくれる、神さまみたいな存在じゃない。
あたしが欲しいのは、あたしと一緒に願ってくれる、お友だち――」
「――だからあたしたち、もう一度、出会おう?」
これは圧巻だった。可能性の世界として、どこまでも一途で、熱を帯びた一筋の閃光が宇宙の中を駆け抜けて収束していく至高の百合物語。
134億光年先にある『目標』へと向かって、ただひたすらに時を駆け抜け堪え忍んでいくあたしと『あたし』たちの純情に胸を締め付けられたかな。
『才能』を授かってさえ、マナブを『凡人』たらしめていた愚鈍さというのは、ひとえに『目標』への一途さだったのではないだろうか。事象の集積から原理を導く帰納法には、『あたし』を『確定』することと引き替えに『箱』の外にある可能性を捨象してしまう。だが、『観測』されたと同時に『確定』される『世界』であってさえも、自らの抱えた『問題』自体を『観測』することが出来なければ決して望む『結果』をたぐり寄せることは出来ない。
一般常識は忘れていい。『過程』が『結果』をつくるんじゃない。『結果』が『因果』を導くの。
原理そのものである『結果』が、事象としての『過程』を生みだし『因果』を繋ぎ合わせる演繹法を志向した『波濤学』が、『あたし』を捨ててさえも『結果』を導き出すことの出来なかったのは恋の盲目ゆえだったのだよなぁ。
彼女を突き動かしていたのは、一言で表すなら「執着」だったのだと思う。
意志によって同期される無限の「あたし」達。
積もり重なった積年の想いの中で、殺し殺されと経てきた地獄の時間が彼女の『目標』への想いを「執着」へと変えてしまったのかもしれない。ゆかりへと向けられた想いはやがてのその意味性を失い、光の指向性のみを伴った「執着」のエネルギーのみが後に残るのよね。そして『目標』へと到達した瞬間、失われた意味性は取り戻され、自らの罪と罰を自覚するの。ただ、マナブはゆかりが好きだった。縛り付けられていたのは自分だった。134億光年の”距離”は自分が作り出した罰そのものだったのだと気づいたマナブをそっと包み込むゆかりの母性に胸を打たれたなぁ。氷解したなぁ。いや、もうただただ圧倒された。『波濤学』を飛び立って、遠い寂しい宇宙を一人さまよっていた『私』を否定したゆかりの慧眼には胸を締め付けられるような思いとともに、「執着」に乗せた怨念が霧散する解放感に打ちひしがれたなぁ。134億年を経て、積年の想いは『夢』へと帰す。二人の繋がりを「約束」に託して。
少女の友情と、可能性としての”If”の愛憎を甘いキスの温度に乗せて『クオリア』の糸が繋ぎ合わせたラストにこみ上げてきたなぁ。
「約束」の反復が二人の間に流れる確かな『クオリア』の存在を確認してくれる。思えば、人と人の繋がり合う「縁」とは、この『クオリア』の共有にあるのかもしれないと思った。他人の『クオリア』を知覚することは出来ないけれど、その存在を『観測』することは出来る。その絆が『運命』を『確定』し、光が指し示す道を浮かび上がらせるのだ。
フェルマーの原理に乗せて紡がれる少女たちの友情に心ときめいた物語でありました。10代の少女の行き場のない想いの奔流と、膨れ上がる自我の肥大化を「ロボットと少女」のテーマから導き出すこの作品には凄まじいエネルギーを感じ取ったなぁ。ロボットが好きな人にも、SFが好きな人にも、少女の愛憎が好きな人にもオススメしてみたい。
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