- さよならピアノソナタencore pieces (電撃文庫 す 9-12)
- 杉井 光
- アスキー・メディアワークス
恋と音楽と革命の物語、珠玉のアンコール・ピース集。
とあるピアノソナタに秘められた真実がナオと真冬を結びつける「Sonate pour deux」。フェケテリコに新しく加入したベーシストと千晶の交流を描く「翼に名前がないなら」。治療のため渡米した真冬とナオの間を行き来するユーリ ──本編4巻の空白の時間を埋める、「ステレオフォニックの恋」。神楽坂のトレードマークである黒のレスポールにまつわる過去のバンドの逸話、「最後のインタビュー」。短編4編に哲朗を描いた掌編「だれも寝てはならぬ」を加えた短編集。
「……あ、そうそう聞いてよエビチリ、ナオがひとり暮らしはじめてからもう何年か経つんだけどさ、おれ最近トイレットペーパーの替え方おぼえた。すげぇだろ」
『じゃあ私は明日リハーサルだし、もう切るぞ』
「なんか反応しろよさみしいだろ!」
『眠れないならべつのだれか相手してもらえ』
おれはふと思いついて、ソファの上で膝をかかえ、最後に訊いてみる。
「……なぁ、ひょっとして、おたおたしてるのっておれの方?」
『今さら気づいたのか?』
美しい。どこまでも透き通ったヒトカケラの物語が、確かに温度を伴って伝わってくる。その欠片は決して揃わない不完全なものなのだけど、その欠けたピースこそが、かえって逆に『さよならピアノソナタ』の物語を永遠のものへと昇華させたように思えました。
ナオと真冬の関係に行き着き、そこから過去を辿るように回想されていく『さよならピアノソナタ』の物語。
語らないことで物語る、フェケテリコの4人の青春の物語は、その後に待つ一つの終着点が語られたものの、それらを押してあまる『さよならピアノソナタ』の物語が色褪せることはなく、むしろその思い出を強調するようなアンコールとなっています。
黒歌鳥の名を冠したバンドのように、欠落を抱えたままその名前を背負っていくラストへと物語を導いた不完全なアンコールは、なんともこの作品らしい美学に彩られた結末だったように思う。それぞれの揺れる想いを抱えたまま、煌く瞬間を欠片に収めた特別な一度だけのアンコールに拍手を送りたい。

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