昨今順調にジャンルを拡大し、ライトノベルにおいても順調にその数を増やし続ける「女装少年」モノですが、一方で「男の娘」というジャンルとの境目があやふやになって混同されがちのように感じます。
この「女装少年」と「男の娘」は似ているようで全然違う。その違いはしっかりと区別されてしかるべきで、そこに”萌え”を見出している僕のような人にとって、とても興味深いシリーズ作品となるのが今回ご紹介する『 蒼海ガールズ! 』です。
まずは「女装少年」と「男の娘」の違いを簡単におさらいしておきましょう。
まず基本として「女装少年」の語は「男の娘」を含む大きな幅があることを前提とします。
その上で、「男の娘物」「女装少年物」を分けるとしたら、
1、見た目が女の子っぽいか否か。
2、自ら女装をしているか否か。
ここが最大のポイントになります。
引用先によると冒頭でまずこう述べられていますが、言い換えるなら「女の子として見られるか」と「中身が女の子であるか」という他者から見た女の子像と、自身の中で実を結ぶ女の子像、つまりは外面と内面の二つの層がおり重なり合っているところがポイントになります。
この両方が揃っていて初めて一般的に言われる「男の娘」になるわけですね。反対に前者だけなら「女装少年」、後者だけなら女性への変身願望のある男の子、ないしは引用先で触れられている「女装できない男の娘」となるわけですが、今回はこれらには触れません。ので手短に、かつ乱暴に定義してしまうと「心の中まで女の子かどうか」が「女装少年」と「男の娘」の分かれ目ということができるでしょう。
これらを踏まえて、『蒼海ガールズ』という作品がいわゆる”女装少年モノ”として異質なのは、なんといっても「女装少年」と「男の娘」の間で揺れ動く絶妙なバランス感覚にあります。
本人はあくまで「女装少年」を貫いているのに、周囲の人々は「男の娘」として取り扱う。ここに認識のギャップがあって、文字通り「男」として、けれど丁重に”女の子”の様に取り扱われるところにこの作品の面白さがあるのです。
まずこの作品のもっとも大きな特徴が主人公となる少年・シューフォンの置かれた特殊すぎる境遇で、ここで1巻のあらすじを簡単に紹介してみます。
あなたのハートに片舷斉射! 男女比 1:200の船上で繰り広げられる「ボーイ・ミーツ・ガールズ」ストーリー!!
「きみはこれから女になる」
「え? え……えええぇ?」
国を追われて海を漂流していた皇子シューフェンは、アラミス王国の軍艦ビシャスホースに拾われる。だが、少女ばかりの乗組員で構成されたこの船には、厳正なルールがあった。すなわち「男子禁制」。
男とバレたら死刑になってしまう状況で、艦長から提案されたのは、持ち前の可愛さを生かして女のフリをすることだった! 少女たちから可愛がられたりセクハラされたりしつつ、果たしてシューフェンは自らの秘密を守りきれるのか!?
この「アラミス王国」というのがある意味この作品の舞台設定の肝になっていて、
国家という枠組みが船上で生きる人々の後ろ盾でもあり、そしてその国家に、この作品の”もっとも大きな特徴”がある。
「兵役? 女が戦にいくのですか?」
「当然じゃ。男を戦場などやって、それで死んだらもったいないであろ」
(中略)
「アラミス人は女のほうが圧倒的に多い。一体一〇……いや、二〇くらいの割合で」
この通り、アラミス王国は見事なまでの「女系社会」。
この作品のもう一つの特徴が「帆船小説」ということなのですが、どこまでも続く海上で揺られながら帆船の上で繰り広げられる物語が一種の閉鎖的な「社会」を形成しているのです。
中でも、シューフォン皇子が拾い上げられた軍艦《ビシャスホース》というのが、
「まぁそんなわけで、アラミスでは男が大切にされ女が軍艦に乗るのが普通なわけじゃ。で、そんな中でも、一九歳以下の娘だけで構成される艦隊が――」
「少女艦隊?」
という少女艦隊で、文字通りの男子禁制。
そして大切なのが、
「我がアラミス少女艦隊は、私のような蒼官や准蒼官以外は、全員一九歳までの少女だけで構成されている。だから男子禁制で、遭難者でも男は助けない」
という規則(ロー)があることで、この中でもっとも重要な規則が、
「少女艦隊戦時規則には、その場合についての刑罰は『死刑』以外記載されていない」
つまりは、「男」だとバレた瞬間、即”死刑”という問答無用のロー。
即ち、船の中は完全なる「女社会」なのです。
その中で国を追われたシューフォン皇子は、紛れもなく「男の娘」として、身も心も女の子を装って振舞うことで「女社会」の”異端者”として扮装せざるを得なかったのですよ。
しかし、”彼女”の中には皇子としての熱い血が、国を納める王族の威厳と矜持が失われてはいなかった。
「確かに予は国を失った! 予を愛してくれた母を失い、予を育ててくれた師を失い、予を守ってくれた家臣を失った!」
「だが予は……わたし(、、、)は、わたしを受け入れてくれる新たな国を得た!」
ネタバレを避ける形で端折って1巻の内容をまとめるならば、こうして「男」であるシューフォンが「女社会」である《ビシャースホース》に”仲間”として迎え入れられコミットする――つまりは市民権を得る――までのお話でした。
ここでのシューフォンは「男」の矜持をもって、かつ皆が認める形で「女」に扮装する「女装少年」だったわけですね。
そうして「男」がコミットして「女系社会」となった《ビシャスホース》は、しかし「女系社会」であったために異分子である「男」は男系社会においての女性みたく、手厚い庇護を受けながらまるで”女の子”のような扱いを受けるようになる。
1巻で「女装少年」としての活躍をおえたシューフォンは、けれど2巻においてその立場は逆転し、意外にも全くの女の子としての「男」、身も心もか弱い存在と決め付けられた「男の娘」として扱われるようになります。
“ハメられた……”
艦内の一大イベント「赤道祭」で「海神」の役を志願したシューフェンは、自らの行動を後悔していた。
“まさかこんな格好をすることになるなんて……!”
アラミス少女艦隊に所属する軍艦《ビシャスホース》。女の子ばかりの乗組員で構成された同艦で唯一の男子であるシューフェンは、いまやマスコット的存在として、毎日チヤホヤされたりイジられたりの日々を過ごしていた。
そんな中、事故によって修理が必要になったビシャスホースは、急遽最寄りの無人島へと立ち寄ることになり――突然始まった女の子だらけの無人島生活で、シューフェンを待ち受ける新展開とは!?
紛れもなく働く少女たちの”マスコット”として仕事も与えられず、手厚い庇護を受けて毎日の日々を送るシューフォン。英雄になっても男と女という性別の垣根を越えることは出来ず、「仲間」として認めてもらえないことに徐々に思いつめていくシューフォンの葛藤に胸が締め付けられるのですよね。
「わたしだって《ビシャスホース》の一員です! みんなの仲間です! お、お客さん扱いしないでください!
「わたしに……わたしに、みんなに受けた恩を返す機会をください……っ!!」
シューきゅんの「ないでまぜん! ……ぐきゅっ!」は思わず萌沈(ぼうちん)するほどの可愛さなのですが、それにしてもあまりにも切実なこの”彼”の叫びが、痛々しいまでに胸に響いてくる。
無人島に舞台を移して、またもや閉鎖的な環境で形成される「女系社会」で”彼”が「女」として認められるための奮闘が始まる。
つまるところ、2巻の焦点はか弱い庇護者としての「男」から、一人前の「女」として扱われるまでの過程に当たっているのです。
船内は男女の優位が逆転した女系社会。いわば、女々しい男の子が一人前の男として扱われるまでを、そこで男女の役割が入れ替わることで捩れが生まれ、紛れもなく「女」としての女装少年、乃至は「男の娘」が成立するのだ。
というわけで「女装少年」と「男の娘」の合間を自在に航行する意欲作『蒼海ガールズ!』を”その筋”の人に全力でオススメしてみたい。揺れていた像が、2巻が発売されることでシリーズを通して「女装少年」として「男の娘」を生きていく――「男の娘」として女系社会を生きる――という変形スタイルをみせてくれました。両者の隙間に萌えを見出す人々にとって、女装少年が男の娘たり得る、というシチュエーションにはクるものがあります。
それは見る人によってはただの「男の娘」なのかもしれない、けれど「女装少年」としての矜持をもって「女」を受け入れる主人公の成長の物語に胸躍るわくわくがあるのです。
そう、これは、一人の「女装少年」が「男の娘」として女系世界を生き抜いていくヒロイ(ニ)ックファンタジー。その中でのボーイ・ミーツ・ガールがより一層「女装少年」としてのシューフォンを引き立てることになる。男と女の狭間にたたされて、皆からもみくちゃにされるシューきゅんの美貌に胸きゅん間違いなしです。
――新しい萌えの航路は開かれた。……かも。
~ あわせて読みたい ~



















Trackback policy - トラックバック・ポリシー
言及リンクは特に必要ありません(が承認待ちになることがあります)。
初めてされる方もお気軽にどうぞー。頂いたトラックバックは丁寧に拝読させて頂いています。
内容が良かった場合はこちらからもトラックバックを送らせていただくことがあります。
あとは、基本的に承認なしなのですぐに反映されますが、機械的に弾かれてしまったトラックバックは承認までにお時間を頂くことがあります。こちらは手動での作業となりますのでご了承ください。
内容が悪質な宣伝目的やスパムと思われるものや全く関係のないトラックバックは削除します。
TrackBack URI