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※記事中に少なからぬネタバレがあります。未視聴の方は要注意を!
容赦なく人が死んでいく展開に定評のある本作ですが、なかでも劇中で多様されているマッチカットに目を向けてみることで、スオウたちの向く旅の行き先と彼女の心情という二つの文脈でその進行方向に大きな変化の生じる様が見えてきたのが今回のエピソードでした。
水着と道路標識というタームをひとまず頭の隅にいれておいていただくとして。
では、彼女たちの旅の軌跡をじっくりと追いかけてみることにしましょう。
まずは本題に入る前に、このお話が『水着』回ということにも着目ねせばなりません。
アバンの一幕。スオウと彼女の友人たちが楽しく集う過去の回想から、同じく『水着』というコンテクストを通じて話は今の、かつ美咲とマダム・オレイユという情報の最前線をかける二人のやりとりへと接続されます。
こうしてスオウの「過去」が何らかの形で引き合いにだされるよ、と暗に伝えられるわけですが、ひとまずは雫の滴る美女たちの水着姿を存分に堪能することと致しましょう。
ちなみに腋の凹凸がでかでかと映されるカットを選択したのは完全に僕の趣味であります。
ここから本題。
まず、今回のエピソードをみていておやっと思ったのがマオが車掌を仰視して、そして恐れおののくというショットでした。
ここでマオは紛れもなく「動物」として扱われるわけだが、どうして「動物」の視線カットがわざわざ挿入されるのか、とまで考えて続く展開を見ていくうちにこのエピソードにおける「仰視」という視線の行き先が重要な意味を持っていることに行き当たりました。
意外にも、このいささか不自然なカットは恐怖を煽るという効果を離れてスオウたちの「過去」の記憶へと結びついたのですよね。
それは、相容れない存在となってしまった大切な人とのかけがえのないひとときの記憶。
それゆえに「恐怖」と「過去」同じ対象に対する相反する感情を想起させてパラドックスを抱えてしまうことになる。
ターニャを仰視するスオウ。まるで二人の心の距離を的確に表しているようでしたが、しかしターニャの淡々と無感情に綴られる痛々しい独白を聞くにつれ、次第に目線は同じ高さにまで移動し、やがてターニャに覆いかぶさるように彼女とスオウの距離は等しく触れ合っていく。ニカを通じて惜別の仲違いをしてしまった二人が再び打ち解けたように見えましたが、けれど皮肉なことに契約者として無感情に語るターニャとイレギュラーとして感情のままにターニャを抱きしめるスオウの姿はまるで正反対に映ったのでありました。
~あるいは『止まれない』~
ヘイとレプニーン、美咲と鎮目の会食を交互にクロスカットで繋ぎながら丁寧に引き継がれた「打ち解ける」というコンテクストでしたが、ここにきて和解するかに思われたスオウとターニャの二人はまたしても引き裂かれてしまう。それは送電線が伝うように伸びていく旅の行き先への道筋を分断するように、レプニーンの胸の内で渦巻いていたパラドックスをヘイが看破してしまうことによって引き起こされる。
窓の外の景色は停止し、代わりにゴキブリの大群が外を覆うあまりにも病的な光景に戦慄してしまうのですが、駆け出すスオウとターニャの後を追うように挿入される『止まれ』のショットは彼女たちの心情を何よりも雄弁に物語っていました。
しかしこの記号化された「標識」は、後から思い出したようにCパートにおいて『進入禁止』と姿を変えて反復されることになる。
そして『進入禁止』を突き進むスオウとジュライとマオの後を追うように、いてもたってもいられないと浮き足立つ美咲の心情を代弁するのが、この背景で一際存在感を主張する『止まれない』なのです。
これら『止まれ』『進入禁止』『止まれない』というテクストがヘイが舵取りをしていた目的地への進行方向を急転換させ、彼の追い求めていた先を妄信していたスオウがはじめて反抗するという物語そのものの舵きりを意味づける一結びのコンテクストを生み出していたのではないでしょうか。
ここで補足しておかなければならないのがずばり車窓からの流れる景色を通じて物語の順接方向を指し示していた「右」向きと、それに抗う逆接の「左」向きの対比でありましょう。
約8秒に渡って延々と車窓から連続する送電線が映される”不自然な”ショットは、この物語に流れていた”向き”を可視化し、そして順接方向を表していたのだと思います。
こうすることでそれぞれの人物が今どういった感情を抱いているのか、という心情描写をより論理的に画面の中に描写していたように感じました。
例えば先ほどのカットに戻って。一人独白を続けるターニャは右を向いていて、それをスオウが抱きしめたのだが、
次の瞬間。車外に拉致されて逃げ出すスオウとターニャはそれぞれ順接方向の「右」とそれを阻止するように「左」を向いて走り出していることが見て取れる。
ここまで克明に描き分けられているのをみると、これほどまでにスオウとターニャが立っている場所は違うことを思い知らされます。けれど、その違いは今までの「契約者」という異端者を順接方向に射抜いてきたスオウの視線ではなく、レプニーンから見たヘイ――車窓に流れる送電線の向きは逆接――というつまりは個人的な私怨が恨みや不条理という形で表出するのですよね。
そしてそのレプニーンの「契約者」への恨み辛みをヘイは看破した。このエピソードにおいてのヘイは紛れもなく順接に物語の渦中を歩むものとして描かれる。
しかし、それこそがターニャというトリガーを持って揺さぶられたスオウとの対立を生み出してしまうのです。
プールに浮かぶレプニーンの姪と対偶をなすように同じ末路を辿ることとなったターニャですが、単なるマッチカットで接続されるわけではなく、先ほどの「左」「右」を踏襲したような形で丁度対偶に対比される様には、この対となるカットが複数の意味を持っていたことを予見させました。
まずはレプニーンがターニャにイリアに殺害された姪を投影していたのではないか、という推測。契約者を憎む彼が、しかしどこか我が子のように親しげにターニャに接していたわけに合点がいく。なるほど、だから彼は「契約者」を憎むことになったと共に、ターニャを傍におくことにしたのかもしれない。
そしてもう一つの意味が、”残されたもの”としてのレプニーンとスオウの比較であります。
レプニーンは「契約者」の影に姪を見ていたし、スオウはこの結末を受け入れて前へと進んでいかなくてはならない。けれどどうだろうか、ジュライとマオとともに進行方向を逆接に歩むスオウは、まるでこの結末を受け入れまい、と頑なに拒んでいるようにも見えませんでしょうか。
そして先週のエピソードで出てきたイリアという快楽殺人者の影が、ターニャを横から打ち抜いたシオンへと覆いかぶさる。
イリア=シオンという意外すぎる、けれど文脈においては確かな結びつき。
図らずもヘイの言う「最低の契約者」と同じ(に見える)結末へと導いたシオンとパブリチェンコ博士に不穏な影がさしこむこととなった。
その経緯をスオウは知る由もないわけですが、この物語を俯瞰する客観視点から落ち着いてみてみれば、この逆接へと向いてしまうスオウの動向さえも、彼女の見知らぬところで「家族」の動向を擁護しているとみることができるでしょう。
丁寧に画面の連鎖を追いかけながら、今まで指し示されてきた物語の順接方向から今回のエピソードにおいて急に舵をきってヘイを除いたスオウたち一向が逆接方向へと歩みを深めてしまったことを指摘してみましたが、いかがでしたでしょうか。
しきりに強調された「仰視」する視線の先にあったのは、紛れもない「夏の太陽」だったのでありましょう。
それ故に、レプニーンは「夏の太陽」を好きになれなかったし、スオウは「夏の太陽」を孤独の温度に震えながら見上げてみることにしたのだと思います。なるほど、そうしてみると『進入禁止』は文字通りのテクスト的な記号であるようにもとれるし、でかでかと正面に構える様はスオウらが目指すべき「夏の太陽」の表象のようにも見て取れる。
そして表出した『水着』に『止まれ』『進入禁止』『止まれない』といういかにも意味深なテクスト。
ここから導き出される結論とはつまり、麗しの美咲さんの『水着』『止まれ』を――いいや、ダメだ『進入禁止』『止まれない』――するということだったのです!
次週いよいよ美咲さんの『水着』の中身が明らかに!(なりません
とお茶を濁してみましたが、僕は断然スオウのつるぺたビキニに軍配を上げたいと思います。
果たして我らがヘイさんは『進入禁止(自転車は除く)』の只ならぬ気配を宿した一本道を、自転車に乗って追いかけてきてくれるのでしょうか。次週の展開が待たれる。
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