スニーカー大賞《大賞》受賞作品を読んでみた [読了]シュガーダーク 埋められた闇と少女

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シュガーダーク 埋められた闇と少女 (角川スニーカー文庫)
シュガーダーク 埋められた闇と少女 (角川スニーカー文庫)
新井 円侍
角川書店(角川グループパブリッシング)

あらすじ

えん罪により逮捕された少年ムオルは、人里離れた共同霊園に送られ墓穴を掘る毎日を送っていた。そんなある夜、自らを墓守りと名乗る少女メリアと出逢う。彼女に惹かれていくムオル。だが謎の子供カラスから、自分が掘っている墓穴は、人類の天敵・死なずの怪物“ザ・ダーク”を埋葬するためのものだと聞かされる!混乱するムオルは、さらにダークに殺されるメリアを目撃してしまい――!?

あなたの友達になります。

これはとても面白かった。”掘り起こす”ということが、少年と少女の真実を、その運命をも暴きたてていく。しかし、本当に掘り起こされたものとは、自らのうちに眠る欲望の渦《ザ・ダーク》でもあったのです。

ただし、個人的に手放しで全肯定できるほどの傑作であったか、といえばそうではなかったことは先にお断りしておかなければなりません。でもこの作品にはそれを押して余る、確かな強みがありました。その一本だけで十分おすすめする理由に成り得てしまうほどのアドバンテージ。

6年ぶりとなるスニーカー大賞《対象》受賞作2作目の『シュガーダーク』ですが、そのあまりにも暴力的な表現を、随所にみられた身体性の生々しい迫力の描写を解き明かしながら、この作品の本当にすごい部分を紹介してみたいと思います。

掘り起こすということ。--もう一つの《ザ・ダーク》

この作品の序幕は、冤罪をきせられて「囚人」の名を冠せられた少年が連行されているところから始まります。

そして連れられたのは人里離れた《共同墓地》。そこで墓堀りとして奴隷労働させられるのがこの少年・ムオルに課せられた運命でもあるのですが、この墓穴を掘りあげる墓掘りの”掘り起こす”という所作が、表土するという因果が、そして埋め立てるということが作品の物語とは別の、もう一つの文脈で暴力的なまでに身体性を訴えかける表象として連鎖的に機能しているのです。

では墓掘りの掘り起こしたもの--もう一つの《ザ・ダーク》とは一体何だったのでしょうか。

《共同墓地》という虚構の《からだ》と墓守りの少女

できるだけにネタバレにならない形でこの作品の表現の妙をお伝えするのはとても難しいのですが、あえて一つだけ明かしてしまうとするならば、ムオルが自分の首輪を外してしまうというところにそれらを握る鍵があります。

これは「囚人」の首に植え付けられる札そのもので、罪人であることの証であるとともに、植え付けられた本人を拘束する拘束具。そして首筋から首の内部に入り込んで頸動脈を挟むように強靱なワイヤーで固定される。これは無理矢理はぎとろうとすれば、たちまち頸動脈を細いワイヤーの線が断ち切ってしまうというもので、囚人の命そのもの奪い去ってしまう代物として描かれているのですが安心してください、ムオルがこの首輪を外したあと、彼がどうなったのかをここで明かすことはありませんので。結末は是非本作で確認していただくことにして。

重要なのは、この首輪がムオルの自由を拘束する拘束具として、そして彼自身を抑圧する枷の象徴であるということです。そしてそれを外すことに意味がある。

これだけでは彼の中のトリガーとして機械的にON/OFFを設定するガジェットにすぎないのですが、ここで巧妙に「視線を遮る」という所作を挟むことでもっと空間的な広がりをみせていくことになります。

風景は再び序幕に戻る。この《共同墓地》という舞台にムオルが連行される過程で、視線の遮断が、それまでムオル主体で繰り広げられてきたであろう現実世界と虚構の《共同墓地》とを分断する境目となっていたのです。「視線を遮る」というシークエンスを挿入することで、現実世界から独立した《共同墓地》が明確に描かれることになる。そしてムオルの目にする《共同墓地》は、彼の主体と巧妙に混ざりあって、フィールドとしての墓地と彼の無意識が具現化する土壌がないまぜとなった虚構を形成する。

それだけではこの「視線の遮断」は少し説得力としては弱いのですが、続く墓守りの少女・メリアとの出会いが、その中でもう一度反復される「視線を遮る」という所作が、主体としてのムオルと《共同墓地》との連携を決定づけるのです。

「被ってみるか?」

メリアは目を輝かせて答えた。

「貸してくれるの?」

(中略)

ヘルメットを渡しながら、少年は少女の白くて華奢な手を見た。それから、自分の土のこびりついたごつい手をみた。

わかっている--彼女と俺とでは、世界が違う。

メリアのことを、とても好きだった。

そうして少女との断絶を身にしみて実感するムオル。ヘルメットをメリア渡し、それを被る彼女でしたが

サイズの合わないヘルメットにぶかっと覆いかぶさられて、メリアはほとんど目の前を塞がれた格好になっていた。

(中略)

半球形の兜の縁は彼女の口元あたりにあって、その視界を完全に塞いでいる。

そして彼は、メリアの視界が閉ざされていると確信してから、音を立てないように体を寄せ……、それから

といった具合にムオルの頭を守るヘルメットは少女の「視線を遮る」ばかりでなく、彼女と《共同墓地》を分断する--明確な他者と位置づける。そしてそれだけでなく、彼女は彼が視線をむける対象ともなるのですよね。

そうしてここにきて思い至る。本作を実際に読み進めていく中で、離れた場所に建てられた陰気な小屋、墓地に埋葬される《ザ・ダーク》、そして墓地の土壌に深く根を下ろした大きな大木のひとつひとつまでが、主体としてのムオルを視覚的に表す隠喩の連鎖としてもう一つのコンテクストを形成していたことに。この一続きになったムオルの身体表現の連鎖が、やがて迎える超越の時を、迸る激情を、打ち破られるべき《からだ》の土壌として丁寧に組み立てられてきたのです。

体から延びた影の線が世界を浸食するように、少年の絶望はまるで足が地面の張り付くごとく墓土に大木の姿を借りて根を下ろす。そして彼の未知の獰猛な性欲は脈動する怪物《ザ・ダーク》に表憑して少女を蹂躙し、そして 彼の欲望を押しとどめてきた理性の首輪は断ち切れて、ムオルは--世界は一線を超越する。

ポスト『涼宮ハルヒの憂鬱』としてのスニーカー大賞となるか

ここまででこの『シュガーダーク』という作品が主人公のありのままの無意識が《共同墓地》という空間に即座に反映されることを強調してみましたが、実のところまだまだ語りたくてしょうがないのです。しかし、この一連の身体表現の妙は実際に本作を読み進めてもらうことで”体験”していただくとして、ここでは『涼宮ハルヒの憂鬱』を引き合いに出すことで締めたいと思います。

スニーカー大賞の大賞作品の後継として世に出たこの『シュガーダーク』という作品が、『涼宮ハルヒの憂鬱』と比較されるにあたって注目するべきところは、やはり《共同墓地》と《閉鎖空間》の類似性でしょう。

前者は主人公ムオルの理性の首輪に抑圧された無意識下の凶暴な欲望を、後者はハルヒの無意識な願望や欲求を投影する場所として描かれているだけでなく、それらが即座に反映される虚構の世界の形をとっています。そしてどちらも物語の文脈の裏で表裏一体となる虚構として軸が形成されているという共通点があります。

アプローチの形こそ全く違うにすれ、ムオルとハルヒはその《からだ》の一部が世界へと干渉を果たす。

そしてこの「新井円侍」という作家さんはイメージが形を帯びて連鎖していく描写が滅茶苦茶巧いのです。

『涼宮ハルヒの憂鬱』とは全く毛色の違う本作。しかしこの作品のもっとも惜しいところはきれいにまとまりすぎているということ。繋がりがスムースなだけに、きれいにすとんと収まりすぎてしまったところがこの作品が凡作たらしめていたように思います。例えるなら作中で存在感を表す妙に大人しくて不気味な訓練された猛犬。

それだけに一つの作品限りではなく、「作家」という枠組みで是非とも勝負をして頂きたい作家さんでもあります。

だから……この人の作品は、明るいお話をすごく読んでみたい……。あまりにも暴力的で、閃光のように迸る感情の線は――物語を動かす歯車として組み込まれ、読者を切り刻まんと串刺しに突き刺してくる凶暴さは――エッジのきいた”キレ”としてハートをちりちりと突ついてくる……そんな作品を目の当たりにしてみたいと思いました。

物語はすごく直球だった。でも、それを”読ませる”鮮烈なイメージの連鎖が抜群に気持ちよくてそれだけでもう持ち味になっているといえます。それだけで、十分強い。

これは墓守りの少年がひとりの少女を解放し、共にありたいと願う物語。

誰がための闘いか。しかしそれは彼自身の闘いでもあるのです。

この物語の中をかけめぐる閃光のような突きさす光を、読者を切り刻まんとチェーンソーの回転刃を突きつけてくるような凶暴さを、是非ともその目で目の当たりにしてほしく思います。

少年の内に根を下ろした《ザ・ダーク》は、静かにゆっくりと掘り起こされた。

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Itary亜人:ラノベと深夜アニメが主食の装飾系(webデザイン趣向的な意味で)ヘタレ男子。
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