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スオウのデレっぷりに身悶える。
自分の生を実の母親から否定されて、茫然自失となっていたスオウが自分の中の本当の気持ちを発見して生の実感を得ていくまでが気持ちいいエピソードでありました。彼女の胸の内から湧き上がる気持ちが、過去の記憶の中にしかなかった母親の面影よりも、ヘイの手のひらのぬくもりに根を下ろしていたことを情感たっぷりに紡いでいくシーンに胸をうたれたかな。うん、すごく女の子していた。
これは前回のお話で否定されたスオウの女性性にも働きかけるもので、彼女がより一層シオンではないことを、女の子であることを物語っていました。
それでは以前のエピソードとも絡めながら、少しずつスオウの出生を紐解いていくことに致しましょう。
記憶違い ――徹底的に比較される「過去の記憶」と「偽の記憶」
Aパート。未咲が偶然スオウとジュライの二人を発見してから車内に連れ込んで保護するまでで印象に残ったのが、未咲とジュライ双方に根づいていた「過去の記憶」の共有でした。簡単にいえば、両者とも過去に一度会っていたことを覚えていたということなのですが、それらがスオウ抜きに展開されていくということがとても印象的だったのです。
スオウはジュライと出会うまでの彼の以前をしらないし、また未咲という女性の以前もしらない。
そして自分の存在を母親に否定されたスオウにとって、これら二人が共有する「過去の記憶」は過去の生を担保する言葉として受け取ったのではないでしょうか。
以前にも似たようなことがあった。
前回9話でのキコたちとの出会いですが、マオにとってキコは(一方的ながらも)見知った相手だったわけですね。そのいわばひとつの「過去の記憶」が、双方に共有されることで意味をもった。
「過去の記憶」という軸に覆いかぶさる形で剥離した「偽の記憶」。これは”記憶違い”を発端に「過去の記憶」から分離し、そして徹底的に目の前で展開されるそれらと正/誤から相反するタームとなったのです。
そして「偽の記憶」に立脚したスオウの生もまた、誤り、まちがい、そして化物と形容されるまでに批難されることになる。
スオウが眠りから目を覚ますシーンに着目してもわかるように、彼女の生は特に不連続なものとして描かれているのですよね。
9話で一続きのレール上を滑走する様を連想させる電車内で倒れ、キコの自宅で目を覚ますシーン。
ここから本編の流れは一度停滞してスオウの自分探しの旅へと接続されたわけですが、
今回10話の自販機横で野宿していた二人が、再び流れに合流するかのように未咲のポルシェに拾われて目を覚ますシーン。
どちらもスオウにとって間の流れは不連続で、かつ他者によって運命が左右されてきたことを物語ってもいる。それぞれ全く別の場所で目を覚まして、目の前の景色を目の当たりにする彼女は果たしてそれでも昨日の自分と今日の自分が同一人物だと言い切れるのか。自分が自分でないことを半ば受け入れながらもどう受けとめていけばよいのかはかりかねているスオウの戸惑いが、母親の語るスオウの出生の秘密によって瓦解し、やがてヘイにすがりつくほかなくまでが切ないお話だったかな。
母親の独白と言えば、巧妙だったのは未咲の詰問によって流れ始める回想に、マオの科白がオーバラップしていたこと。これは母親がスオウを喪った回想であるとともに、マオが自分の肉体を喪った回想でもある。その二人の主体から回想される生きていた頃のスオウは、二人の「過去の記憶」に担保されていると同時に、マオが体を喪ってから動物の体をもった自分を見つめてきたであろうマオの存在が今のスオウの姿とオーバーラップするのですよね。その身体性の断絶と、自意識の連続性が今後のスオウの生き方のヒントにもなったのではないでしょうか。
俺にとってのスオウはおまえだ
そうしてスオウは恋をする。
「夏の太陽」と対応する「冬の月」のイメージ
日本神話によるとイザナギの右目からは月讀命(ツクヨミノミコト)が生まれたそうですが、作中でイザナギに位置づけられているシオンの右目は「過去の記憶」の捏造である「偽の記憶」によって上書きされ、その本来の生み出すという目的から目をそらさせてミスリードしていたように思います。
そうした一連の「偽の記憶」が明らかになったところで、ここにきて本筋の内側から表出したのが「月」のイメージでした。
月がせり出してきて恐怖感を煽ってくる描写は、最初にヘイが誘拐した耀子を尋問したシーンでみてとれます。
手術台から見上げたヘッドライトにはやけに圧迫感を感じるのですが、これは後に挿入される”弓張月”の不気味なショットと似たものを感じませんでしょうか。
そしてこの後耀子は何者かに殺害され、「月」に見立てたヘッドライトの出現からその結果としての一続きのシークエンスを生み出すことになる。これが、後のCパートの「月」の出現によって反復され、その結果が続く展開へと接続されて不穏なイメージを煽るわけですね。そうして登場する第三の勢力。
この”第三”というタームもまた、本編内の描写にひっそりと紛れ込む形で描写されていたのです。
このカットを見ていただきたい。
ここで未咲の背景に映り込んだ看板に「ハートマーク」と「第三不動産」の文字が縦に並んでいますよね。このカットで映し出されている未咲はいわばスオウの視線ショットなわけですが、ここに映る「ハートマーク」はずばり未咲に抱いた信頼を記号的に表していていたのだと思います。しかしその後唐突に画面内に侵入してくる”第三者”こそがヘイなのです。この看板に描写された「ハートマーク」から「第三不動産」への接続が、ちゃんと実際の動きに踏襲されて文脈として成りたっている。このことが看板に込められたメッセージの妥当性を担保しているのではないでしょうか(保険だけに)。
画面の中で意識的に用いられている標識や看板のテクストは、ちゃんと一続きで文脈として成り立っているのでこの作品での未知の展開(いわば「未来の記憶」)への再解釈に流用してもいいような気が致します。
そうして耀子を殺した某、Cパートで月のイメージを引き継ぐ某といった第三の存在へと接続されていく。
スオウの見つめる「過去の記憶」と、ヘイの視線の先にある「未来の記憶」。
前者のイメージが「夏の太陽」に集約されているのであれば、後者はいわば「冬の月」と言い表してよいのではないでしょうか。
「日本神話」をモチーフにした「イザナミ/イザナギ」という軸が、「未来の記憶」といったSF的な想像力によって未来方向へと向きを与えられるのがDTB2の面白いところでもあります。
今回明かされた「偽の記憶」によって《トウキョー・エクスプロージョン》の日の記憶という土台も崩れ落ちたわけですが、いよいよ収束し始めた予断を許さない物語に期待が膨らみます。
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